被相続人が連帯保証人をしていた場合の相続放棄
1 連帯保証人の地位も相続するか
例えば、Aさんが、その友人であるBさんの借入金について金融機関に対し連帯保証をしていた場合、Bさんによる返済がストップしてしまうと、金融機関はAさんに対して返済を求めることになります。
この連帯保証人の地位(連帯保証債務)も、「被相続人の財産に属した一切の権利義務」(民法896条)に含まれますので、Aさんが死亡した場合、Aさんの相続人はBさんの借入金についての連帯保証人の地位も相続することになります。
もちろん、Bさんが借入金について全額返済した場合は、Aさんの相続人が連帯保証人として返済することはないですが、Bさんが完済するまで、連帯保証人というリスクある地位は継続することになります。
これを免れるためには、「自己のために相続の開始があったことを知った時」(民法915条1項本文)から原則として3か月以内(熟慮期間内)に家庭裁判所で相続放棄の手続を行わなければなりません。
2 連帯保証人の特殊性
例えば、上記事例のAさんが会社を経営していた場合、中小企業の代表者は会社の借入金等について連帯保証人となっていることが通常ですので、Aさんが死亡して相続が発生した際、Aさんの相続人は、Aさんに連帯保証債務があることを容易に推測することができるため、速やかに財産と負債の調査を行って相続放棄の手続を行うことが可能です。
しかし、上記事例のようにAさんが友人のBさんに頼まれて借入金の連帯保証人になっていたようなケースでは、その事実を家族が知らないことも多く、また、Bさんが延滞しない限り金融機関からの督促状等もAさんには届きませんので、連帯保証人となっていることを知るための手掛かりもないということがあります。
このようなケースで、Aさん自身には(連帯保証債務以外の)負債がなく、めぼしい財産もないような場合は、Aさんの相続人は、相続を承認するか放棄するかを決めるためにAさんの財産や負債を調査するインセンティブがありません。
しかし、熟慮期間の起算点である「自己のために相続の開始があったことを知った時」というのは、原則として、相続開始の原因たる事実(被相続人の死亡など)およびそれによって自分が相続人となったことを知った時をいいますので、連帯保証債務の存在を知ったときには3か月の熟慮期間が経過していたということにもなりかねません。
3 熟慮期間の起算点の例外
この点については、最高裁や下級審判例で例外が認められています。
最高裁は、相続開始の原因たる事実および自分が相続人となったことを知った時から3か月以内に相続放棄等をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の事情からみて当該相続人に相続財産の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において上記のように信じるについて相当な理由があると認められるときには、例外的に、熟慮期間は相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識しうるべき時から起算すべきものとしています。
下級審判例には最高裁よりも緩い基準で熟慮期間の起算点を判断しているものありますので、最高裁の基準に当てはまらない場合でも、必ず弁護士に相談してください。